台湾映画『人として生まれる』 性分化疾患の少年を描く問題作 世界初上映


 
3月11日(木)にABCホールで台湾映画『人として生まれる/ Born to be Human/ 生而為人』の世界初上映が行われました。「第16回大阪アジアン映画祭」の特集企画《台湾:電影クラシックス、そして現在》の入選作品です。アメリカで映画を勉強した中国出身のリリー・ニー(倪曜)監督の長編劇映画デビュー作。

■ストーリー
2008年、台湾・基隆に暮らす、少し気弱でゲーム好きの14歳の少年シーナンを突然襲った度重なる血尿と貧血。心配した両親は彼を病院に連れて行きます。膀胱がんを恐れていた両親に医師が告げた診断結果は、「性分化疾患」。シーナンは男性と女性、2つの生殖機能を持って生まれていたのです。医師はシーナンの両親に「性別適合手術を受け、女性として生きるべきだ」と1つの性を選択するよう伝えますが…。

※「性分化疾患」は、染色体、性腺、もしくは解剖学的に性に関する体の発達が先天的に非定型的である状態を指す医学用語で、多くの疾患(体質)を含む総称です。新生児期に外性器を見ただけでは性別の判定が難しいケースから、第二次性徴を迎える頃に初めて気づくケースもあります。「DSDs(体の性の様々な発達:Differences of Sex Development)」や、海外では「インターセックス(intersex)」とも表現されます。

本作で描かれる内容はあくまでフィクションであり、実際の性分化疾患(DSDsを持つ人々とはかなり異なります。フィクションではない実際の性分化疾患(DSDs)を持つ人々や医学的な解説については、下記のネクスDSDジャパン」「日本小児内分泌学会」をご参照ください。

参考: 「日本性分化疾患患者家族会連絡会 ネクスDSDジャパン」公式サイト
https://www.nexdsd.com/dsd

参考: 「日本小児内分泌学会」公式サイト 「性分化疾患」について
http://jspe.umin.jp/public/seibunka.html

昨年の大阪アジアン映画祭でも性分化疾患を題材としたフィリピン映画『メタモルフォシス』が入選しました。本映画祭のプログラミング・ディレクター、暉峻創三さんは、性分化疾患は「世界的にも映画で描かれることが少ないテーマですが、決してこの題材の作品を探して持って来たわけじゃありません。偶然、応募作品の中に映画として評価が高いものが2年連続で入っていたんですよ」と嬉しそうに話しました。

続けて、性分化疾患を題材とする本作は「台湾だからこそ制作できた映画」と。「監督は中国出身ですが、当然中国ではできない。それが台湾だったら制作できるということで、台湾の映画会社が逆に是非にと資金も出してくれたそうです」と本作の誕生秘話を明かしました。

こうして本作の舞台は中国から台湾に変更されました。しかし、なぜか時代も2008年の設定に。時代設定を13年前に変えた理由は、多様な性への理解が広く進んでいる現在の台湾にすると、内容の一部があまりにも不自然に見えるからだと考えられます。
 


難役を見事に演じきった主演のリー・リンウェイ(李玲葦)さん(左から2人目)

例えば、劇中で一人の級友を除き、学校の全生徒が性分化疾患に激しい拒否反応を示す描写です。台湾では2004 年に「ジェンダー平等教育法(原文:性別平等教育法)」が制定され、小中学校で性教育と性の多様性を含むジェンダー平等教育が義務付けられました。その後、ジェンダー平等や性の多様性を当然と考える若者が増え、それが2019年5月のアジア初となる同性婚合法化を促した大きな要因となったと言われています。

ですから、実は本作の設定である2008年の学校でも、すでにジェンダー平等教育が始まっています。主人公シーナンに手を差し伸べる級友、それに教師もいたはずだと願いたいですね。

ちなみに、北京でオリンピックが開催された2008年という年は、台湾において性指向による差別禁止が明記された「性別工作平等法(日本の男女雇用機会均等法に類似)」が公布、施行された記念すべき年です。その改正前の名称は「両性工作平等法」。中国語の「性別」は「ジェンダー」に対応する語で、「男女」だけでなく多様な性の存在を含んでいます。

リリー・ニー監督はメッセージ動画の中で、「彼ら(性分化疾患を持つ人)の声はもっと聞かれるべきですし、尊重され平等に扱われるべきだと思っています」と力強くコメント。強い正義感を持って本作を制作したことが伝わります。しかし、劇中では専門家である主治医の台詞に性分化疾患について不正確な情報が含まれるなど、本作には正しい知識を持たない観客に誤解を与えかねない描写が混在していました。観客が本作で描かれる全てを鵜呑みにしないことを祈るばかりです。

また国連の資料を調べると、新生児の「0.05%から1.7%」が性分化疾患を持つと記載がありました。ニー監督がメッセージ動画で話した「2,000人に1人」は「0.05%」で計算した値ですね。一方、「1.7%」で計算すると、「2,000人に34人」。国連の資料には続けて、人口の1.7%という推定率は「赤毛の人の割合とほぼ同じです」と。より身近な存在だと感じられますね。

参考: 国連人権高等弁務官事務所 公式サイト(英文)より
https://www.unfe.org/wp-content/uploads/2017/05/UNFE-Intersex.pdf

 
『人として生まれる』の次回の上映は3月14日(日)13時00分からで、会場は梅田ブルク7。「第16回大阪アジアン映画祭」での最終上映となります。

第16回大阪アジアン映画祭は新型コロナウイルス感染症の影響等により、実施プログラムを中止または変更する場合があります。最新情報が公式ウェブサイトで発表されますので、ご確認くださいね。
 

詳細情報
1)大阪アジアン映画祭・スクリーン上映
■開催日程
3月14日(日)まで

■会場
梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホール

■料金
1,300円(前売り、当日ともに同料金)。当日券は前売券が完売していない上映回のみ販売。当日券には22歳までの方が500円で購入できる「青春22切符」もあります。
http://www.oaff.jp/2021/ja/ticket/index.html

■公式サイト
http://www.oaff.jp/2021/ja/index.html
 

2)「大阪アジアン・オンライン座」
■開催日程
《Theater ONE》
3月20日(土)23:59まで
《Theater OAFF2021》
3月14日(日)21:00から3月16日(火)21:00まで

■料金
《Theater ONE》
長編1作品1,000円、短編1作品500円、「Theater ONE PASS(全作品視聴可能パス)」3,000円《Theater OAFF2021》
1作品1,300円

■配信サイト
https://online.oaff.jp/
 

(取材・文:Zac Oda)