トランスジェンダー女性と娘を描く名作『ラブリー・マン』 大阪アジアン・オンライン座で上映中! 3月20日まで

3月14日(日)にABCホールで受賞結果発表とクロージング作品『アジアの天使』の世界初上映が華々しく行なわれ、「第16回大阪アジアン映画祭」は閉幕しました。これで10日間のスクリーン上映は終了となりましたが、今年はオンライン上映「大阪アジアン・オンライン座」が引き続き開催中です。過去の大阪アジアン映画祭で好評だった7作品を上映する《Theater ONE》は3月20日(土)まで、今年の入選作品のうち台湾クラシック映画2作品を上映する《Theater OAFF2021》は3月16日(火)までとなります。

オンライン上映の作品リストの中には、本映画祭のプログラミング・ディレクター、暉峻創三さん(以下、暉峻PD)が「名作中の名作!」と大絶賛するインドネシア映画『ラブリー・マン/ Lovely Man』(2011年)も。それでは、まず今年の主な受賞結果を報告後、本作についてご紹介しますね。


『アジアの天使』の舞台挨拶で登壇した石井裕也監督(右)

■主な受賞結果
グランプリ(最優秀作品賞)は日本映画『いとみち』が受賞しました。本作は観客賞も受賞し、なんとW受賞の快挙。そしてLGBTQ作品では、先日こちらで紹介したベトナム映画『姉姉妹妹』がABCテレビ賞を、韓国映画『イニョンのカムコーダー』が芳泉短編賞を受賞しました。ABCテレビ賞を受賞した『姉姉妹妹』は2022年1月ごろ朝日放送テレビで放映予定です(関西圏のみ)。


リー・リンウェイ(李玲葦)さんが薬師真珠賞を受賞

本映画祭のスポンサー、株式会社薬師真珠が「最も輝きを放っている」と評価した俳優に授与される薬師真珠賞は、台湾映画『人として生まれる』に主演したリー・リンウェイ(李玲葦)さんが受賞しました。昨年の男性同士の純愛を描く台湾映画『君の心に刻んだ名前』に出演のレオン・ダイ(戴立忍)さんに続き、2年連続で台湾映画の出演者の受賞となりました。


インドネシア映画『ラブリー・マン』(2011年)

■インドネシア映画『ラブリー・マン』
敬虔なイスラム教徒の少女チャハヤは、幼い頃に自分を捨てた父親サイフルを捜すため田舎から一人で大都会ジャカルタへ向かいます。しかし、ようやく見つけ出した父親は名前を変え、女装して夜の街角に立つ男娼に。ショックを受けるチャハヤを最初は冷たく突き放すサイフルでしたが…。トランスジェンダー女性の父親と娘の一夜の再会を、主演の2人が繊細な演技で見せる感動作です。

暉峻PDは「これはもうLGBTQという枠を外したところでも名作中の名作。インドネシア映画の新しい波を、こんな人が現れたんだということを、世界に対して宣言したっていうぐらい重要な作品なんですよ。西洋の映画史で言えば、ゴダールが『勝手にしやがれ』を作ったみたいな衝撃度で受け止められた作品です」と大絶賛しています。

https://www.youtube.com/watch?v=Kf4PyGdP5NA

本作は2012年の第7回大阪アジアン映画祭で日本初上映され、見事「スペシャル・メンション」を受賞。また、アジア版アカデミー賞とも呼ばれる「アジア・フィルム・アワード」では監督賞と主演男優賞にノミネートされ、ドニー・ダマラさんがインドネシアの俳優として初めて「主演男優賞」を受賞しました。

一方、本国でも、それまでほとんど描かれなかったトランスジェンダー女性を題材にした作品ながら、「インドネシア映画祭(Festival Film Indonesia)」で最優秀作品賞や監督賞を含む6部門でノミネートされ、「主演男優賞」を受賞するなど高い評価を得ています。

しかし、テディ・スリアアトマジャ監督は、インドネシア国内での上映は撮影時には念頭になかったと第29回東京国際映画祭のQ&Aで明かしています。

本作の運命を変えたのはジャカルタで開催のクィア映画祭「Q!Film Festival」でした。同映画祭でのたった1回の上映がきっかけで本作はSNSで評判を呼び、海外の映画祭でも上映されることに。本作は「インドネシアのLGBTコミュニティにとても快く受け入れられました」とスリアアトマジャ監督は当時を振り返りながら語っています。

※上記のQ&Aは東京国際映画祭のYouTube公式チャンネルで視聴できます。ネタバレを含みますので、ぜひ本作の鑑賞後にご覧くださいね。

■東京国際映画祭YouTube公式チャンネル 『ラブリー・マン』 Q&A
https://www.youtube.com/watch?v=EBOjwUzNsho&t=92s


出典:第7回大阪アジアン映画祭 公式サイト

本作の見どころの一つは、なんと言っても主演2人の繊細な演技。娘チャハヤを演じたライハアヌン・スリアアトマジャさんは、脚本を読み「ぜひやりたい」とスリアアトマジャ監督に伝えたと上記のQ&Aで語っています。

また本作は色彩の使い方も秀逸です。夜の街の黒色を背景に、チャハヤが身にまとうヒジャブ(ベール)の清らかな白色と、サイフルが着るドレスの赤色。その対比は鮮やかで目を奪います。またこの白と赤の2色は劇中で何度も背景や小物に使用され、さらに時折もう1色も。ぜひ色彩にも注目しながら鑑賞してみてくださいね。

映画『ラブリー・マン』のオンライン上映は3月20日(土)まで。上映時間は72分。インドネシアの名作が日本語字幕付きで観られる貴重な機会です。どうぞお見逃しなく!

詳細情報
■開催日程
《Theater ONE》
3月20日(土)23:59まで
《Theater OAFF2021》
3月16日(火)21:00まで

■料金
《Theater ONE》
長編1作品1,000円、短編1作品500円、「Theater ONE PASS(全作品視聴可能パス)」3,000円
《Theater OAFF2021》
1作品1,300円

■配信サイト
https://online.oaff.jp/

(取材・文:Zac Oda)