「第16回大阪アジアン映画祭」開幕! 今年もLGBTQ作品が入選 初のオンライン上映も


 
毎年アジアの最新作を楽しませてくれる大阪アジアン映画祭が、今年も無事に開催されます。スクリーン上映は3月5日(金)から14日(日)まで。昨年からコロナ禍が続いているにもかかわらず、上映作品の製作国・地域は過去最多タイの23 の国・地域で、上映作品数も63本と例年と変わらぬ水準を維持しています。

また初めて「大阪アジアン・オンライン座」を開設し、過去の大阪アジアン映画祭で好評だった7作品と、今回の入選作品のうち台湾クラシック映画2作品がオンラインで視聴可能に。第16回大阪アジアン映画祭はオンライン上映も含むと計70作品が上映となり、今年も関西最大規模の映画イベントとして開催されます。

それでは、今年の上映作品の中から、多様な性や愛の形を題材にした5作品をご紹介します。よかったら、ぜひご覧くださいね。
 


台湾映画『愛・殺』

■台湾映画『愛・殺』(日本初上映) 3/10(水)、3/14(日)
検察官のイージエは、過失致死事件の被疑者の女性シャオフォンと一夜の過ちで体の関係を持ってしまいます。シャオフォンはイージエに思いを寄せ続けますが、信心深いカトリック教徒のイージエは、シャオフォンが服役中に罪の意識から若い男性モンイェと結婚。服役を終え出所したシャオフォンとのいびつな三角関係を通して人間の秘められた欲望や激情を描く作品です。

監督は、オープンリー・レズビアンのゼロ・チョウ(周美玲)監督。2007年にベルリン国際映画祭「テディベア賞」を台湾映画として初めて受賞した『Tattoo-刺青』を手がけ、その後もLGBTQを題材にした映画やドラマを積極的に撮り続けています。近年では、男性の制服を着て勤務するレズビアンのフライトアテンダントをコミカルに描き、職場の性別役割分担を問う『帥T空姐』(英題:Handsome Stewardess)や、中国・成都で「偽装結婚」生活をするレズビアンとゲイの夫婦と家族を描き、舞台化もされた『偽婚男女』を制作しました。

最新作『愛・殺』は、上記の一般向けのコメディドラマと異なり、暴力的なまでに激しい女性同士の性愛を描く、監督が「自分のために撮った」と語る野心作です。大阪アジアン映画祭のプログラミング・ディレクター、暉峻創三さん(以下、暉峻PD)も「チョウ監督の今までの表現の水準を突破し、映画的な最先端に踏み込んだ作品」と感心した様子で語りました。

http://www.oaff.jp/2021/ja/program/t06.html
 


インドネシア映画『ラブリー・マン』

■インドネシア映画『ラブリー・マン』 「オンライン座」で3/20(土)まで
敬虔なイスラム教徒の少女チャハヤは、幼い頃に自分を捨てた父親サイフルを捜すため田舎から一人で大都会ジャカルタへ向かいます。しかし、ようやく見つけ出した父親は名前を変え、女装して夜の街角に立つ男娼に。ショックを受けるチャハヤを最初は冷たく突き放すサイフルでしたが…。トランスジェンダー女性の父親と娘の一夜の再会を、主演の2人が繊細な演技で見せる感動作です。

本作は第7回大阪アジアン映画祭で「スペシャル・メンション」を受賞。またアジア版アカデミー賞とも呼ばれる「アジア・フィルム・アワード」で監督賞と主演男優賞にノミネートされ、ドニー・ダマラがインドネシアの俳優として初めて「主演男優賞」を受賞した作品です。ちなみに同賞の歴代の受賞者には、イ・ビョンホン(韓国)、役所広司(日本)、リャオ・ファン(中国)、イルファン・カーン(インド)らアジアを代表する超実力派俳優の名前が並んでいます。

暉峻PDは「これはもうLGBTQという枠を外したところでも名作中の名作。インドネシア映画の新しい波を、こんな人が現れたんだということを、世界に対して宣言したっていうぐらい重要な作品なんですよ。西洋の映画史で言えば、ゴダールが『勝手にしやがれ』を作ったみたいな衝撃度で受け止められた作品です」と大絶賛。また今年の大阪アジアン映画祭に入選したテディ・スリアアトマジャ監督の最新作『苦しみ』は、『ラブリー・マン』と全く異なるホラー映画。ぜひ両作を鑑賞して監督の才能の幅広さを楽しんでもらいたいと話しました。

https://online.oaff.jp/film/raburiman-lovely-man/
 


ベトナム映画『姉姉妹妹』 (c) Muse Films

■ベトナム映画『姉姉妹妹』(日本初上映) 3/10(水)、3/13(土)
大企業家の娘で豪邸に住むラジオパーソナリティのキムは、自分の番組のリスナーでDV被害に悩む妊婦のニーを、夫のフイの反対を押し切ってメイドとして家に迎え入れます。しかし、夫婦関係はギクシャクし始め、さらにキムは自分の中の秘めた感情に気づいてしまい…。夫婦とメイドの三角関係を描く心理サスペンス映画で、2020年釜山国際映画祭ではR-15指定を受けた話題作です。

暉峻PDは、本作は検閲の厳しいベトナムの商業映画としては「恐らく今まで描かれたことがなかった同性愛という題材を手がけた作品」と。しかも「女性同士の割と踏み込んだ性描写もあるにもかかわらず、本国で一般公開されています」とベトナムの商業映画の新しい動きについて述べました。

http://www.oaff.jp/2021/ja/program/n07.html
 


台湾映画『人として生まれる』

■台湾映画『人として生まれる』(世界初上映) 3/11(木)、3/14(日)
2008年、台湾・基隆に暮らす、少し気弱でゲーム好きの14歳の少年シーナンを突然襲った度重なる血尿と貧血。心配した両親は彼を病院に連れて行きます。膀胱がんを恐れていた両親に医師が告げた診断結果は、「性分化疾患」。シーナンは男性と女性、2つの生殖機能を持って生まれていたのです。医師はシーナンの両親に「性別適合手術を受け、女性として生きるべきだ」と1つの性を選択するよう伝えますが…。

暉峻PDは「男として生まれるとか、女として生まれるということではなくて、我々は人として生まれているんだということだと思うんです。あまり男か女かということに捉われない。そこに捉われて、それゆえにいろんな悲劇が生まれているということをこの映画は訴えているんだと思うんですよね」と作品を振り返りながらコメントしました。

http://www.oaff.jp/2021/ja/program/t01.html

また暉峻PDは、性分化疾患は「世界的にも映画で描かれることが少ないテーマにもかかわらず、偶然にも2年連続で大阪アジアン映画祭に入選しました」と喜びを語りました。第15回大阪アジアン映画祭で上映されたフィリピン発の青春映画『メタモルフォシス』も同じく「性分化疾患」をテーマとした作品でした。昨年の映画祭の最終日にホセ・エンリーケ・ティグラオ監督にインタビューする機会を得て、作品誕生のきっかけや作品に込めた思いなどを聞きました。よかったら、ご一読くださいね

本国で性分化疾患(intersex)の当事者も絶賛! フィリピン映画『メタモルフォシス』 監督インタビュー

 


韓国映画『イニョンのカムコーダー』(短編)

■韓国映画『イニョンのカムコーダー』(海外初上映) 3/12(金)、3/14(日)
女子大生イニョンは、ビデオカメラの一種であるカムコーダーで大学生活最後の思い出を撮るために、友人のジョンウンと冬のキャンプに出かけます。好きなものを撮っていると言うイニョン。ジョンウンが、イニョンのカムコーダーの映像を見ると、風景と共に自分の姿が…。人と人の結び付きの新たな可能性を示す23分の短編作品です。

実は、暉峻PDに今年一番のおススメのLGBTQ作品を尋ねた際に、1本だけを選ぶのは難しいと前置きした上で挙げたのが本作でした。「人間の心のわずかな変化の描写がすばらしい」と絶賛しながらも、「短編なので、多くの人から一番見落とされがちだと思うんですが、今のところ韓国以外では上映されておらず、貴重な上映でもあります。ぜひ観ておいてほしい作品です」と強くアピールしました。

※プログラム《短編C》『裸の電球』『すてきな冬』『エジソンの卒業』『夜番』と併映
http://www.oaff.jp/2021/ja/program/sl04.html

一昨年は『先に愛した人』、昨年は『君の心に刻んだ名前』と男性同士の愛を描く話題作の上映が続いた大阪アジアン映画祭。今年は男性同士の愛を描いた作品の入選がないことを伝えると、暉峻PDは驚いた様子で「そう言われればそうですね」と。

「意図的にそうしたわけでは全くないです。一般的に言うと映画で描かれるのは男性同士の愛のほうが多い印象がありますが、今年は応募の時点で女性同士の愛を描いた作品にすごく優れたものが多かったですね」と選考を振り返りました。そして、純粋に優れた作品を選んだ結果として同性愛を描く入選作は「女性同士の愛を描く映画ばかりになりました。言われてみれば、今年の面白い特徴だなと思いますね」と笑顔でコメント。

続けて「映画監督の才能の一つに『人間観察力』があります。単に映画の技術をよく知っているかどうかだけではなく、結局はどれだけ人間が描写できるかが重要だと思うんですよね。そんな『人間観察力』のある監督たちが、今、恋愛の対象を女性、男性と決め込まず、いろんな自然な愛の形があることを認め、それを描こうとしていると感じます」と話しました。

上に挙げた男性同士の愛を描いた2作品は動画配信サービスNetflix (ネットフリックス)で視聴可能です。『先に愛した人』はゲイ役を演じた主演のロイ・チウさんが登壇した舞台挨拶の報告記事を、また『君の心に刻んだ名前』はリウ・クァンフイ(柳廣輝)監督のインタビュー記事を本サイトに記載しています。よかったら、ご一読くださいね。

台湾映画『先に愛した人』でゲイ役を演じたロイ・チウさんが登壇! 台湾ナイトも開催!

時代を越え貫く男性同士の純愛を描いた台湾映画『君の心に刻んだ名前』 監督インタビュー

第16回大阪アジアン映画祭は新型コロナウイルス感染症の影響等により、実施プログラムを中止または変更する場合があります。最新情報が公式ウェブサイトで発表されますので、ご確認くださいね。

詳細情報
1)スクリーン上映
■開催日程
3月5日(金)から3月14日(日)まで

■会場
梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホール

■料金
1,300円(前売り、当日ともに同料金)。当日券は前売券が完売していない上映回のみ販売。当日券には22歳までの方が500円で購入できる「青春22切符」もあります。
http://www.oaff.jp/2021/ja/ticket/index.html

■公式サイト
http://www.oaff.jp/2021/ja/index.html
 

2)「大阪アジアン・オンライン座」
■開催日程
《Theater ONE》
3月20日(土)23:59まで
《Theater OAFF2021》
3月14日(日)21:00から3月16日(火)21:00まで

■料金
《Theater ONE》
長編1作品1,000円、短編1作品500円、「Theater ONE PASS(全作品視聴可能パス)」3,000円
《Theater OAFF2021》
1作品1,300円

■配信サイト
https://online.oaff.jp/
 

(取材・文:Zac Oda)