映画『女になる』上映会レポート


登壇した「三姉妹」 (左から)ミムラさん、中川未悠さん、東直さん

2018年6月23日(土)に大阪・天満橋のドーンセンターでLGBTドキュメンタリー映画『女になる』の上映会を開催しました。上映後のトークショーには、本作に出演した仲良し「三姉妹」こと中川未悠さん、ミムラさん、東直さん、さらにマネージャー・東根歩夢さん、「つながりカフェ」代表・阪部すみとさんが登壇。熱気に満ちた超満員の会場から次々とあがる質問に、司会のLGBTライフビジョンコーチ・藤原直さんとともに明るくユーモアたっぷりに回答し、会場は何度も温かい笑いに包まれました。


観客からの質問に答える主演の中川未悠さん

映画『女になる』(田中幸夫監督)は、男性から女性への性別適合手術を受けた中川未悠さん(当時21歳)の手術前後を丁寧に追ったドキュメンタリー映画です。当時、未悠さんは神戸の大学に通う大学生で、「自分に正直に生きる」ことを決断した未悠さんを温かく見守り支える家族や友人、大学の先生、手術の担当医師、高校生の時から務めるアルバイト先の店長などが登場しています。

上映後、観客からの温かい歓迎の拍手の中でトークショーが始まりました。まず本作を制作するに至った動機について、主演の未悠さんは「男性として生きてきたつらい記憶を記録したいと思って。30歳、40歳になって見返したときに、笑って『こんなときもあったな』と振り返れるように」とコメント。さらに「過去をポジティブに変えていきたいという思いで、知り合いだった田中監督に映像化の話を持ちかけました」と明かしました。


(左から)東根歩夢さんと阪部すみとさん

本作の上映のために全国を駆け回る未悠さんのマネージャー・東根歩夢さんはFTM(エフティーエム)でLGBT当事者の一人。女性として生まれましたが、今は男性として生活しています。東根さんの家族も本作を観ており、「何回観てもエエ映画や」と言ってくれたそうです。「家族という存在は、LGBT当事者にとって力強く、支えになってくれる存在。なので、当事者の方だけでなく、その家族の方にもぜひ観てもらいたいです」と力強くアピールしました。また東根さんは「自分自身が当事者として生活していく中で、カミングアウトができなくてしんどい時期もありました」と打ち明け、「この映画を観て、何かが変わるきっかけになったり、元気をもらえる人がいたらいいなと思います」とコメントしました。

「つながりカフェ」代表の阪部すみとさんは、本上映会を開催するに至った経緯を聞かれると「歩夢くんから『上映会を開催したい』と連絡があり、彼の熱い思いに動かされました」とコメント。すみとさんが未悠さん、ミムラさん、東根さんと知り合ったのは、3人が京都で開催された「つながりカフェ」のイベントに参加したときだそう。なぜ参加しようと思ったか質問された未悠さんは「かなわぬ恋なんですけど、実はすみとさんがむっちゃタイプなんです」と告白し、会場から大きな驚きの声が。ちなみに、すみとさんには付き合って15年になる同性のパートナーがいます。

本作のタイトル『女になる』にちなんで、司会の藤原直さんから仲良し「三姉妹」に「女になってよかったことは何か」という質問が。「三姉妹」の3人はMTF(エムティーエフ)。男性として生まれましたが、現在は女性として生活しています。まず実のお姉さんが会場に来ていたミムラさんは「姉といっしょに買い物に行って、女物の服をいっしょに見たり、服の貸し借りをしたりできるようになったことがうれしかったです」と笑顔で答えました。東直さんは「私もお母さんとグッズを交換したり、化粧品の話をしたりするとき、すごく楽しいなと思います」とコメント。2人とも本当にうれしそうに話し、会場は優しい雰囲気に包まれました。


司会の藤原直さん

続いてミムラさんから藤原直さんに「女性から男性になってよかったことは何ですか」と逆質問が。藤原さんはFTM(エフティーエム)で、すでにタイで性転換手術を受けて戸籍の変更も済ませています。藤原さんは「まだ女性の服を着ていたときは、男性の服を買うときに自分が着る服だと言えなくて、彼氏や兄の服だと言って買っていました」と振り返りました。さらに「堂々と服を買うのにも勇気が要りました。どうして当たり前のことができないのか、という『もやもや』がずっとありました」と当時の気持ちを打ち明けました。

Q&Aになると観客からは次々と手が上がりました。自身もトランスジェンダーだという観客は「元気をもらいました。未悠さんがこんなにポジティブに生きているのはすごいと思います」と感想を述べました。どんな質問にも答えるという未悠さんに会場から「恋人がいるか」「手術後の男性器はどうしたのか」などの直球の質問が続出。慌てる未悠さんの姿に会場は何度も爆笑の渦に。会場にはLGBT当事者の方も多く、まだまだ多くの手が上がっていましたが、残念ながら時間オーバーでQ&Aの時間は終了しました。

最後に藤原直さんは、本作は「LGBTやセクシャルマイノリティの方のためだけの映画ではないと思います。自分らしく生きたい全ての人が勇気や元気をもらえる映画です。『自分はこれでいいのか』『外からどう見られるか』と気にしていた未悠さんが、映画の中で自分を取り戻し、『自分は自分でいい』と自分の気持ちに正直に生きていこうとしていました。その過程が未悠さんをさらに輝かせていると感じました」と感想を述べました。

また未悠さんは「LGBTという言葉は広まってきてはいますが、まだまだ理解されていない世の中だと私も思っています。私は家族や友達など周りに恵まれていますが、悩まれている方から相談を受けたときには『10人、20人にカミングアウトしたら必ず1人は分かってくれる人がいる』とお伝えしています」とコメント。本作をきっかけに人との出会いが増えたという未悠さん。最後に「これからも人との『つながり』を大切にしたいと思います」と語り、大きな温かい拍手に包まれてトークショーは終了しました。

映画『女になる』は2017年10月の東京を皮切りに大阪・神戸・名古屋などでも劇場公開されました。現在、全国で上映会を開催中です。本作の市民上映会などに関するお問い合わせはg.m.way19@gmail.com(担当は東根歩夢さん)までご連絡ください。なお、次回の上映会は9月中旬に北海道で開催予定です。

つながりカフェは2015年からLGBT映画の上映会を実施し、今回が3回目でした。1回目は2015年5月に日本映画『カミングアウト』、2回目は2016年8月に米国ドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』を大阪で上映しました。次回は2018年9月15日(土)に日本のドキュメンタリー映画『私はワタシ~over the rainbow~』の上映会とトークショーを開催する予定です。詳細は追って公式サイトにアップされるとのことです。

(取材・文:Zac Oda)
 
 
詳細情報
■サイト
・つながりカフェ 公式サイト https://tsunagary.jp/
・映画『私はワタシ~over the rainbow~』 公式サイト https://warmblue2018.wixsite.com/overtherainbow
 
 
 
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