フィリピン映画『ビリーとエマ』 Q&Aの様子
3月14日(木)、シネ・リーブル梅田にてフィリピン映画『ビリーとエマ/Billie & Emma』の上映が行われました。本作は「第14回大阪アジアン映画祭」の特集企画《ニューアクション! アジア》の入選作品。上映後のQ&Aセッションには、コンペティション部門の国際審査委員も務めるサマンサ・リー監督が登壇しました。
サマンサ・リー監督
サマンサ・リー監督の作品が大阪アジアン映画祭で上映されるのは、『ビリーとエマ』が2作目です。1作目は20代のレズビアンのラブストーリーを描く長編デビュー作『たぶん明日』で2017年に入選しています。同作はその後「第26回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」でも上映され、また米国のロサンゼルスで開催される世界最大級のLGBTQ映画祭「Outfest」では、なんと「新しい才能」賞を受賞しました!
「若い頃の自分のようなLGBTQの子たちに、映画を通して仲間がいることを伝えたい」と語るリー監督。⼥性とLGBTQをテーマにした作品を撮り続けており、クィア映画界の新星として国際的に注目されています。
フィリピン映画『ビリーとエマ』
『ビリーとエマ』は1990年代半ば、大都会のマニラから田舎町の厳格なカトリック女子校に転校してきた周囲になじめないイサベル(愛称ビリー)と、優等生のエマの女性同士の恋愛を爽やかに描いた作品です。キリスト教と同性愛、思春期の性自認、LGBTQ当事者の孤独、高校生の妊娠、経済格差などのテーマも扱いながらも、みずみずしい青春映画に仕上がっています。
Q&Aの様子
上映後、観客からの温かい拍手に包まれて登場したサマンサ・リー監督。冒頭で「この映画の海外初上映を日本の皆さんに見ていただけて、とても嬉しいです」と喜びを語りました。
司会者から本作を制作した理由を聞かれると、リー監督は「私は女性の権利、特に女性の自分自身の体や将来に対する権利に関心があります」とコメント。続けて、「フィリピンはとても宗教の力が強く保守的な国です。妊娠中絶の選択や、セクシュアリティをオープンにすることがなかなか受け入れられません。特にマニラ以外の地方では、それが顕著です。ですから私はスクリーンで、社会にどう思われるかをあまり気にしない強い女性を見せたかったんです」と映画に込めた思いを語りました。
舞台がカトリック女子高でキリスト教と同性愛、妊娠といったテーマも扱っていたという司会者のコメントを受け、リー監督は「私自身がカトリックの学校に14年間通っていました。ですから、劇中の授業内容や活動などの多くは私が実際に体験したことに基づいています」と明かすと、観客から大きな驚きの声が上がりました。劇中では、カトリック女子高ならではのある課題がビリーとエマが恋に落ちていくきっかけとなっています。
観客の感想に喜ぶリー監督
観客から質問を募るとすぐに手が挙がり、「この映画を子供のときに見たかった。ディズニー映画のラブストーリーを見てるみたいでした。そして、二人が男性と女性じゃないっていうのがすごい良いなと思いました」と感激した様子で感想を述べました。するとリー監督は「これはインディペンデント映画ですが、私はハリウッドのロマンチック・コメディのような作品にしようと思っていました。クィア映画だからといって暗く悲劇的である必要は全くありません。私は本作を楽しく、ハッピーでとてもロマンチックな映画にしたかったんです。ですから、ディズニー映画のようだと言っていただけて、とても光栄です」と嬉しそうに観客に語りかけました。
キャスティングについて語るリー監督
主役のビリーとエマを爽やかに演じた俳優二人について聞かれると、リー監督は「実はビリー役を演じる俳優にはLGBTQ当事者を希望していましたが、自分のセクシュアリティをオープンにしているプロの映画俳優は見つかりませんでした」と明かしました。続けて「そこで、SNSに広告を出して募集した結果、演技が未経験だったザール・ドナトさんを起用することになったんです」とキャスティングの裏話を語りました。一方、エマを演じたギャビー・パディラさんはインディペンデント映画に多数出演している経験豊富な俳優とのことです。
サイン会の様子
サイン会の終了後、リー監督から日本のLGBTQ当事者、特にビリーやエマのような若いLGBTQ当事者に向けたメッセージを頂きました。なお、日本語訳は監督に確認したうえで意味を少し補足してあります。
“To anyone who’s listening to this, I just want to tell you to hang in there, and that it’s going to be OK. You know, coming out and being comfortable with yourself doesn’t happen overnight. It’s not instant, it’s a process and it’s something you need to keep working on. So, if you’re not yet at that point, that’s fine. But if you are at that point already, congratulations! Everyone’s journey is different. So just be kind to one another and love one another.”
(日本のLGBTQ当事者の方に伝えたいのは、諦めずに頑張って、ということ。きっと大丈夫。カミングアウトをして自分らしく生きるのは一晩でできるような簡単なことじゃなく、時間のかかるものです。それは一連のプロセスで、取り組み続けねばならない作業だと思います。だから、あなたが今はまだそこに達していなくても、大丈夫。そこに至る途上にいるのだから。もしあなたがすでにそこに到達しているのなら、おめでとうとお祝いを言わせてください。一人ひとりの道のりは違います。互いを思いやり、愛しましょう。)
ウエルカム・パーティの様子
翌日の15日(金)に毎年恒例のウエルカム・パーティが大阪市中央公会堂にて盛大に開催されました。乾杯の音頭をとったのはサマンサ・リー監督らコンペティション部門国際審査委員の3人でした。パーティが始まると、会場のあちこちで映画ファンと国内外のゲストが歓談し、またゲストは気さくにサインや記念撮影に応じていました。実は、本パーティはゲストにとっても観客から作品の感想や意見を聞ける大変貴重な機会です。とても興味深そうに映画ファンから話を聞くゲストの姿が印象的でした。
乾杯の音頭を取る国際審査委員のリー監督ら3人
ウエルカム・パーティはサポーター会員になれば誰でも出席できます。会費は5,000円から。締め切りは会員の種類によりますが、例年2月中旬から3月中旬です。興味を持たれた方は、ぜひ来年ご参加くださいね。
■「第14回大阪アジアン映画祭」は3月17日(日)まで。会場は梅田スカイビルの中にある「シネ・リーブル梅田」やJR福島駅近くの「ABCホール」などです。
■当日券は1,500円で前売券が完売していない上映回のみ、上映当日に各上映会場にて販売されます。なお、当日券には「青春22切符」があり、22歳までの方は500円で購入可能です。
■第14回大阪アジアン映画祭 公式サイト
http://www.oaff.jp/2019/ja/index.html
(取材・文:Zac Oda)
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