2022年3月12日(土)に大阪市港区の「AKARENGA WEDDING(アカレンガウエディング)」で、両家の親戚や親しい友人が祝福する中、阪部すみとさんと森口玄貴さんのウェディングパーティーが盛大に開催されました。パーティーでは、自分らしい服装で集まったゲストが参加したチャレンジファッションショーや、ドラァグクイーンによるパフォーマンスも。だれもが楽しめる内容で、笑顔があふれる会場は何度も大きな拍手に包まれました。
今回ウェディングパーティーを開催したのは「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」を運営するTsunagaryオフィス合同会社の最高執行責任者(COO)の阪部すみとさん(以下、すみとさん)と、最高経営責任者(CEO)の森口玄貴さん(同、玄貴さん)。それでは、早速パーティーの様子を報告します。よかったら、ぜひご覧くださいね。
オープンカーに乗って登場したすみとさん(左)と玄貴さん
オープンカーに乗って会場に登場した新郎二人。冒頭のウェルカムスピーチで、すみとさんはまずゲストに出席のお礼を述べました。そして「玄貴の親戚のみなさまには、今回のパーティーのご招待に際して、私たちの関係をカミングアウトする必要が生じ、驚きとともにご心配をおかけいたしました。にもかかわらず、カミングアウトと同時に、私たちを温かく受け入れてくださったことに感謝いたします。また中心となって動いてくださった玄貴のお母様には、大変なご心労をおかけしました。この場をお借りして、改めて感謝いたします」と今回のパーティーの招待をきっかけに二人の関係をカミングアウトしたことを明かし、改めて感謝の気持ちを伝えました。
ウェルカムスピーチをするすみとさん(左)
すみとさんと玄貴さんは、交際18年目になるゲイカップル。2018年には同性カップルの関係を公的に認める大阪市のパートナーシップ制度に登録しています。しかし日本では現時点で法律上、同性同士の結婚はできません。
すみとさんは、日本で同性婚が認められたタイミングでウェディングパーティーを開催するかなと漠然と考えていたと言います。しかし昨年6月にウェディングプランナーの松田耀平さんが「お二人でウェディングパーティーをしませんか」と声をかけ、背中を押してくれたことをきっかけに、前向きに考えるようになったそうです。
そして熟考の末、「まだ法律上の結婚が認められていないからこそ、今のタイミングでやることが、たとえ微力でも、社会を変えるきっかけになればと思い、ウェディングパーティーをすることにしました」と開催の理由を打ち明けました。
最後に「本日はゲストのみなさまが楽しめるエンターテイメント性の高い参加型のパーティーを企画しました。様々なコンテンツをご用意しています。みなさまに感謝を込めて、ささやかなもてなしではございますが、どうぞ、ごゆっくりと楽しんでいってください」と笑顔でウェルカムスピーチを終えました。
ウェルカムスピーチをする玄貴さん(右)
続いてマイクを握った玄貴さんは「すみとのほうから、ちょっと長い話がありましたので、手短に話します」とユーモアたっぷりに話し始め、会場から大きな笑い声が。しかし親戚が座るテーブルを向いて、「親戚一同集まっていただき、本当にありがとうございます」と言った後、感極まり話せなくなってしまった玄貴さん。会場から「がんばれ!」の声と温かい拍手が起こりました。
深呼吸の後、玄貴さんは「これ以上、話すと泣きそうなので…。プランナーの耀平さん、スタッフの皆さん、今日手伝ってくれた皆さん、ありがとうございます」と涙をこらえながら話しました。最後に「みんなが楽しんでいただけるものにしたいと思って企画してきた結婚パーティーです。いっぱい楽しんで帰ってください。よろしくお願いします」と。新郎二人は一緒に一礼し、ウェルカムスピーチを終えました。
乾杯の音頭をとる井上朱美さん(右)
乾杯の挨拶は友人の井上朱美さん。タイ国政府観光庁大阪事務所にマーケティングオフィサーとして勤務しており、2020年9月にはオンラインイベント「おうちでタイを楽しもう! -タイ国政府観光庁 × Tsunagary Cafe presents」に登壇も。このイベントには、この日ウェディングパーティーに参加したドラァグクイーンのROBIN(ロビン)さんも出演しています。
新郎二人のスピーチに感激して涙を流していた井上さん。司会の方から呼ばれて気持ちを落ち着けてから、すみとさんとの最初の出会いは仕事だったと話し始めました。その後、新郎二人と公私ともに付き合うようになったと言う井上さんは、自分にとって大切な存在である二人が、集まったゲストの皆さんの前でこんなに幸せな顔を見せられることを心から喜んでいると、うれしそうな様子で話しました。
井上さんは「乾杯」の掛け声の代わりに、世界の平和を祈って「Peace for All(ピース・フォー・オール)」という言葉で音頭をとり、乾杯の挨拶を終えました。
友人代表のスピーチをする竹内正直さん(右)
ビュッフェ方式の食事と歓談の後、友人の竹内正直さんがスピーチに立ちました。竹内さんは約10年前に転勤で大阪に来た後、なかなか新しい友達ができなかった頃に「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」の集まりに参加し、新郎二人と知り合ったそうです。そこはLGBTQ当事者だけでなく、皆が自分のありのままで存在していいと思え、安心して話せる場だと感じたと言う竹内さん。
続いて竹内さんは新郎二人のエピソードも。二人の自宅に遊びに行くと、すみとさんが踊ったり、おどけたりと外では見せない一面を見ることがあるそうで、竹内さんは家には二人が信頼し合う空気感がある、と。そこは二人が安心して自分でいられる場だと感じると話し、最後に「お二人は僕の憧れのカップルです。お幸せに!」と笑顔でスピーチを終えました。
新郎二人によるケーキ入刀の瞬間!
ステージ前に大きなウェディングケーキが登場し、新郎二人によるケーキ入刀が行なわれました。ウェディングケーキを前に手を重ねナイフを持つ幸せいっぱいの二人を撮影しようと大勢のゲストがステージ前に駆け付けました。そして、その後は二人がお互いにケーキを食べさせ合うカップルバイト。友人の2組のカップルも合流し、ステージ前に3組のカップルが集まりました。
カップルバイトには友人2組のカップルも参加
カップルバイトに参加した左のカップルは、大久保希望さん(左)と大久保暁さんのご夫婦。暁さんは、体の性と自認する性が異なるトランスジェンダーで、現在は男性として暮らしています。2013年に戸籍変更と改名を完了し、2015年に希望さんと結婚。現在はLGBTQ啓発活動を行う「暁project(あかつきプロジェクト)」の代表を務め、全国の小中高校や自治体などでLGBTQに関する講演や研修を行っています。講演実績は年間100件以上に上り、2021年は120件以上も行なったそうです。
大きなケーキをほおばる6人に会場は大爆笑
そして右の二人は、井上ひとみさん(左)と瓜本淳子さんのレズビアンカップル。二人は2015年に大阪市北区の扇町公園で開催された「関西レインボーフェスタ2015」で結婚式を挙げました。その後2019年に特定非営利活動法人「カラフルブランケッツ」を立ち上げ、すべての人が生きやすい社会を目指し活動しています。昨年は11月22日の「いい夫婦の日」から3日間、大阪市内のギャラリーで「私たちだって“いいふうふ”になりたい展」を開催。すみとさんと玄貴さんも参加したこの企画はメディアでも大きく取り上げられました。
ポーズを決める井餘田みのりさん(中央)
新郎二人が中座した後は、ゲストが飛び入りで参加できるチャレンジファッションショーが開催されました。希望者を募ると次々と手が挙がり、あっという間に20名以上が参加することに。歩くコースは、まず後方からステージ上に登場しポーズを決め、そして客席の間のランウェイを歩きドアの前で再度ポーズ、それからステージに戻って最後のポーズを、というもの。BLACKのメンバーからウォーキングの簡単なレクチャーを受けた後、早速チャレンジファッションショーの幕開けとなりました。
最初にステージに現れたのは井餘田みのりさん。このパーティーのために新調したという赤い衣装とアクセサリーで身をまとい、いきいきと楽しそうにトップバッターを務めました。井餘田さんは男性として生まれ、今は女性として生活するトランスジェンダーです。現在は特定非営利活動法人「MixRainbow(ミックスレインボー)」の理事長として主に兵庫県尼崎市で、LGBTQ当事者と理解者がつながりを作ることができる交流会や勉強会などを定期的に開催しています。
会場が笑顔であふれたチャレンジファッションショー
参加者の一人ひとりが自分らしいポージングを伸びやかに披露し、大いに盛り上がったチャレンジファッションショー。最後を飾ったのは、お色直しをしてレインボーをあしらった素敵な衣装とメイクで登場したすみとさんと玄貴さん。会場は大きな温かい拍手で新郎二人を迎えました。
チャレンジファッションショーの最後を飾った新郎の二人
チャレンジファッションショーの記念撮影の後、ドラァグクイーン2人によるパフォーマンスが始まりました。まずさっそうとFemminina(フェミニーナ)さんがステージに登場。音楽に合わせて見せる妖艶で迫力のあるパフォーマンスに、会場から感嘆の声と大きな拍手が起こりました。
華やかなパフォーマンスを披露したフェミニーナさん
フェミニーナさんの退場後、会場に名曲『レット・イット・ゴー~ありのままで~』が流れ、『アナと雪の女王』のエルサの衣装でROBIN(ロビン)さんが登場すると、子どもたちも大喜び。それからロビンさんは座って見ていた新郎二人に突然スプレー缶を渡し、半ば強引にステージ前に誘いました。
エルサの衣装で登場したロビンさん
打ち合わせ無しだったらしく、戸惑う新郎二人に会場は大爆笑。しかし二人は音楽とロビンさんのパフォーマンスに上手に合わせて「雪」を降らせ、3人のパフォーマンスに会場はたくさんの笑顔と盛大な拍手で包まれました。
ロビンさんの動きに合わせ「雪」を降らせる新郎の二人
パフォーマンスの後、再びドラァグクイーンの二人が登場し、楽しいトークを繰り広げました。フェミニーナさんによると、新郎二人との出会いは昨年12月。ホテル「アロフト大阪堂島」で開催されたクリスマスパーティーでのことだったそうです。同ホテルは2021年6月に、LGBTQツーリズムに積極的に取り組む公益財団法人大阪観光局から「LGBTQフレンドリーホテル第1号」に認証されています。
チャレンジファッションショーに飛び入りで参加したフェミニーナさん
そして、その際に新郎二人から「ぜひこういう祝福の場(ウェディングパーティー)に『華』を添えてくれないか」と声をかけてもらったとうれしそうに話し、続けて「わたしたちは『造花』でございますけれども、喜んで出演させていただきますよ」と答えたと笑顔で言うと、すかさず会場から「うまい!」と笑い声が。人との出会いや、つながりを大切にする新郎の二人らしいエピソードで、会場は優しい雰囲気に包まれました。
新郎から花束を贈られた阪部信子さん(左)と森口亨子さん(右)
華やかで楽しいドラァグクイーン二人によるパフォーマンスとトークの後、親戚や友人が温かく見守る中、新郎二人からお母さんに花束の贈呈が行なわれました。4人の少し照れたうれしそうな笑顔が印象的でした。
感謝の花束を贈られた松田耀平さん(右)
そして、サプライズで新郎二人からウェディングプランナーの松田耀平さんにも花束が贈られました。今回のウェディングパーティー開催のきっかけとなった松田さん。感激した様子で花束を受け取りました。
ゲストに挨拶をするすみとさん(左から2人目)
すみとさんはお礼の挨拶で、まず来場してくれたゲストや、今回のウェディングパーティーを支えてくれた友人やスタッフに感謝を述べました。その後、黒の衣装を全身にまとい優雅なパフォーマンスでパーティーを開始前から盛り上げたBLACKの皆さんとの出会いについて話し始めました。それは2021年に開催されたダイバーシティなファッションショー「KANSAI-ALLYMO(関西アライモ) 2021」だったそうです。
そして、今回のウェディングパーティーでのパフォーマンスとチャレンジファションショーは「昨年11月に亡くなったメンバーの優子さんからの提案だった」と明かし、「優子さんは、きっと天国から温かく見守ってくださっていると思います」と静かに語りました。
BLACKの皆さん
すみとさんは最後に「私たちはこれからもお互いに支え合い、共に人生を歩んでいきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします」と力強く話し、そして「ご列席のみなさま方のご健康とご多幸をお祈りしまして、私たち二人のご挨拶に代えさせていただきます。本日はありがとうございました」と改めてお礼を述べて、謝辞を締めくくりました。
なお、今年も3月21日(月・祝)に「KANSAI-ALLYMO(関西アライモ)2022」が開催されます。会場はグランフロント大阪のナレッジシアター。昨年に引き続き、すみとさんと玄貴さんもモデルとして出演する予定です。
阪部信子さん(左)と森口亨子さん
ウェディングパーティーの終了後、すみとさんのお母さん・阪部信子さんは「楽しかったです」と満面の笑顔。そして、しみじみと「二人は付き合って18年目なので、今更とも思いましたが、本当によかったです」と、少し離れた所でゲストを見送るすみとさんと玄貴さんを優しい目で見つめながらうれしそうに話してくれました。
ウェルカムスピーチで「今から何年かかるか分かりませんが、日本で同性婚が認められたタイミングで、ウェディングパーティーをすることになるのかなと漠然と考えていました」と率直な気持ちを述べていたすみとさん。
現在、日本の一部の自治体には性的少数者のカップルを公的に認めるパートナーシップ制度があり、すみとさんと玄貴さんも2018年に大阪市に登録しています。しかし、パートナーシップ制度は法律上の婚姻(結婚)とは全く別のもの。子どもの共同親権、所得税や相続税の配偶者控除などは認められません。
カップルバイトに参加した井上ひとみさんと瓜本淳子さんの二人も大阪市のパートナーシップ制度に登録済みです。しかし、この制度では二人で一緒に購入した自宅をパートナーが相続できません。そこで、行政書士の康純香さんに相談し、結婚が可能なら必要のない手間とお金をかけて、法的な効力を持つ「公正証書遺言」を作成したそうです。
日本の同性婚について、2019年2月14日のバレンタインデーに札幌、東京、名古屋、大阪の4か所で同時に日本初の同性婚についての集団訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)が提起され、その後、福岡も加わって現在5つの地方裁判所で裁判が進行中です。2021年3月には札幌地裁が、同性婚を認めない民法や戸籍法の規定が法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの初判断を示し、大きな前進を見せました。
また現在、パートナーシップ制度も全国にどんどん広がっています。2022年に導入予定の自治体を含めると、パートナーシップ制度がある自治体に住む人は、ついに日本の総人口の5割を超えるそうです。
たくさんの人の声で、力で、私たちが住む日本は少しずつ変わってきています。
すみとさんと玄貴さんのウェディングパーティーに出席して、思い出した言葉があります。
「同性婚を認めることで不幸になる人はおらず、幸せな人が増えるだけ」。
この日、優しい雰囲気に包まれた会場で、幸せそうな新郎二人だけでなく、二人を温かく見守る笑顔、そして感動し流す涙を見て、この言葉を思い出しました。日本でも1日でも早く同性婚が実現してほしい。性的マイノリティの人たちが、自分も将来、親戚や友人に囲まれ祝福されて幸せな結婚式を挙げることができるんだと前向きに明るい将来を描ける日本に1日でも早くなってほしいです。
すみとさん、玄貴さん、末永くお幸せに!
■「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」のご紹介
すみとさんと玄貴さんが運営する「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」は、自分らしく過ごせるサードプレイスとして、人との心地よいつながりが生まれるLGBTQフレンドリーなコミュニティを提供しています。定期的にレンタルスペースやZoomで開催し、時にはイベントも。人の優しさや温かさ、安全・安心を感じられたり、リラックスしたりできるコミュニティの運営を心がけています。開催の予定は決まり次第、下記の「開催情報」ページにアップされています。最初はちょっと勇気がいるかもしれませんが、よかったら、ぜひ一度、参加してみてくださいね。
■「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」開催情報
https://tsunagary.jp/archives/category/schedule
(取材・文:Zac Oda)
記事で紹介した団体などの公式サイトのリストです(掲出順)。
■AKARENGA WEDDING(アカレンガウエディング)
https://www.akarenga-wedding.jp/
■大阪市「パートナーシップ宣誓証明制度」
https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000439064.html
■タイ国政府観光庁
https://www.thailandtravel.or.jp/
■暁project(あかつきプロジェクト)
https://akiraookubo.jimdo.com/
■特定非営利活動法人カラフルブランケッツ
http://www.colorfulblankets.com/
■関西テレビ報道RUNNER特集
「私たちも『ふうふ』と認めて 同性婚実現を願う2人」
https://www.ktv.jp/news/feature/2111212/
■特定非営利活動法人MixRainbow(ミックスレインボー)
https://www.mixrainbow.jp/
■公益財団法人大阪観光局「LGBTQツーリズム」
https://octb.osaka-info.jp/business/b15.html
■KANSAI-ALLYMO(関西アライモ)2022
https://www.kansai-allymo.com/
■こう行政書士事務所
https://kou-lgbt.com/
■Marriage For All Japan ー結婚の自由をすべての人に
https://www.marriageforall.jp/